岡山地方裁判所 昭和26年(行)14号 判決 1953年12月15日
原告
黒住半三郎
被告
岡山市
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、被告は原告に対し金六百七十円を返還せよ。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、其の請求の原因として、被告は原告に対し昭和二十六年分固定資産税を賦課し、同年六月十七日頃同年度第二期分固定資産税(税額金六百七十円)の徴税令書を原告住所に送達したので原告は之に対し同年七月二十日頃一応右固定資産税として金六百七十円を被告に納入したが、原告は市町村の普通税である固定資産税の対象となるべき土地或は家屋を所有しておらず、従つて被告の原告に対する右賦課処分は無効である。されば被告は法律上の原因なくして原告の財産に因り金六百七十円相当の利益を受け之がため原告は右同額の損失を蒙つたものと謂うべく、原告は被告に対し右金六百七十円の返還を求めると述べ、立証として甲第一、二号証を提出し、証人小橋最太郎の証言を援用し乙各号証の成立は何れも之を否認すると述べた。
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中被告が原告に対し昭和二十六年分固定資産税を賦課し同年度第二期分固定資産税徴税令書(税額六百七十円)を原告主張の頃その住所に送達し原告が同年七月二十日頃右固定資産税として金六百七十円を被告に納入したことは認めるが其の余の事実は凡て否認する。即ち原告は同年一月一日現在土地台帳並に家屋台帳に岡山市上伊福八百十番地四十八坪七勺旧賃貸価格二十四円三銭、岡山市上伊福八百十一番地上建物家屋番号千十二番建坪三十二坪四合六勺旧賃貸価格百六十四円(昭和二十六年度第三期分までの課税標準となる仮価格旧賃貸価格の九百倍十六万九千二百円、税率百分の一・六、年税額二千七百七円、一期二期三期各期の税額年税額の四分の一、端数計算法により第一期六百九十円、第二期六百七十円、第三期六百七十円)の所有者と登録されていた者であり、地方税法第三百四十三条に謂う所の固定資産税の納税義務者である。従つて被告は原告に対し前記固定資産につき昭和二十六年度分固定資産税を課したものであり、而して同年度第二期分固定資産税の納期は同年六月三十日であり、被告は原告に対し右第二期分固定資産税の徴税令書を同月十五日に原告宛発送し、右令書は原告主張の頃原告に到達し之に対し原告は被告に右第二期分固定資産税を納入したものである。
以上の如く被告が原告に対してなした本件固定資産税賦課処分は何等違法の点なく、本件固定資産税賦課処分の当然無効を前提とする原告の本訴請求は理由がないと述べ立証として乙第一、二、三、四号証を提出し、甲第一、二号証の成立は認めると述べた。
理由
被告が原告に対し昭和二十六年度分固定資産税を賦課し、同年度第二期分固定資産税徴税令書(税額六百七十円)を同年六月十七日頃原告住所に送達し、之に対し原告が同年七月二十日頃右固定資産税として金六百七十円を被告に納入したことは当事者間に争いがない。而して原告は、市町村の普通税である固定資産税の対象となるべき土地或は家屋を所有していないものであるから被告の原告に対する右固定資産税賦課処分は無効であると主張するので、先づ此の点について判断する。
市町村が普通税として課する固定資産税は、地方税法第三百四十三条第三百五十九条によれば、土地又は家屋については土地台帳又は家屋台帳等に所有者として登録されている者に対し、当該年度の初日の属する年の一月一日を基準として課すべきものであるところ、其の方式及び趣旨により公文書と認められるので真正に成立したものと推定される乙第三、四号証及び弁論の全趣旨によれば昭和二十六年一月一日現在土地台帳及び家屋台帳に原告が被告主張の本件宅地建物につき所有者として登録されていたことが認められる。されば仮りに原告主張の如く当時右宅地建物につき原告がその所有者でなかつたとしても被告が原告に対してなした本件昭和二十六年度分固定資産税賦課処分は地方税法第三百四十三条に合するものであり当然無効とは謂えない。されば本件固定資産税賦課処分が当然無効であることを前提とする原告の本訴請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のように判決する。
(裁判官 三関幸太郎 辻川利正 中原恒雄)